濾過!徹底考察

 子供の頃は、フナやタナゴやドジョウ、クサガメなどを捕まえてきては、片っ端から飼育したものです。当時はプラケースや屋外に置いてあったFRPのひょうたん池での飼育でした。

 当時と現在とで、もっとも変わったのは濾過に対する認識です。当時は、濾過について、何の知識もありませんでした。ろくに水換えもせず、見るに見かねた両親が、私に代わって世話をしてくれたものでした。

 それから20数年が経ち、真剣に飼育に取り組むようになって濾過の重要性を知りました。このへんで、濾過について勉強したこと、そして、気がついたことなどを整理し、考えをまとめたいと思います。

水が汚れるということ

 自分の経験を思い起こしても、まったくの初心者の段階と、ある程度経験した段階とでは、濾過の重要性に対する認識がまったく違っているようです。

小さな水槽なのに濾過器が必要なの?

 水の生物飼育に興味のない人からよく聞かれるのは「えっ、こんなに水が少なくても濾過器をつけなくちゃいけないの?」というセリフです。

 どうやら多くの人に、濾過器とは大きくて立派な水槽につけるものだという先入観があるようです。


濾過器のついた大きな水槽、ついてない金魚鉢。
それが当然だと思ってませんか?

 この先入観は子供時代に作られるものだと思います。
 子供が自分で買える濾過器というのはたかが知れていて、せいぜい、エアーポンプで動作させる投げ込み式濾過器です(例えば水作S、私も買いました)。外部濾過器や、ましてやオーバーフロー濾過などは存在すら知らなかったし、もし知っていたとしても、目が飛び出るほど高価で、子供に手の出せるものではありませんでした。そもそも濾過の重要性自体知らなかったわけなので、そんなものにお金をかける気には、まったくならなかったでしょう。

 なぜ水が汚れるか、そして濾過器の役目について考えれば、「小さな水槽でも濾過器が必要なの?」という発言が、いかにおかしな発言だと気がつくはずです(経験のある人から出たセリフであれば、その裏には”水が少なければ頻繁な水換えも楽だから濾過器はいらない”という意味がこめられているのですが)。実際には、飼育生物と水換え条件が同じなら、水量が少ないほど濾過を充実させる必要があるのですから。

汚れの元は何か

 まず、汚れは水槽中の生物が”無”から作り出すものではなく、その根源が、主に人間が水槽中に入れる”餌”であるということに注意が必要です。
 植物のように、自ら新たに有機物を作り出せないかぎり、その生物は糞をしたり、死んで自らが汚れの元になる事でしか水を汚すことはできません。

誤解を招く表現

 「この魚はかなり水を汚します」「カメの水の汚しかたは半端じゃない」等、専門の飼育書でもよく使われる言葉で、私もたまに使いますが、これが誤解をまねく元となった表現。
 水を汚す真犯人は、生物ではなく餌です。

 生物は食べたすべてを吸収して成長できるわけではなく、食べても吸収できなかった分は、フンとして再び水中に放出します。また、与えられた餌の一部は食べ散らかされたりもします。それが、汚れの材料となります。

 結局、水を汚しやすいということは、その生物が、

  1. 餌をたくさん食べる(相対的に吸収できない量が増える)

  2. 餌を食べ散らかす(同じ量を与えても、吸収されない量が増える)

  3. 餌の吸収効率が悪い(同じ量を食べても、より大きい(有機分の多い)フンをする。

などの特徴を持っているということを示した表現なわけです。

 「この濾過器は何cm水槽用です」という言い方も、同様に誤解を招く表現です。
 この言葉は”その水槽ならだいたいこのくらいを飼うであろう”という予想に基づいた表現でしかなく、単純に参考にできるものではありません。

 汚れの絶対量が同じでも、水量が少ないと濃度が高くなり、生物にとって害が大きくなり、水量が多ければ、それだけ害も小さくなります。子供がおしっこをしたプールの水を誤って飲んでしまっても、ダメージがあまり大きくないのはこのためです(^^;。

 ならば、以下の場合はどうでしょう。

同じ個体に同じ量の餌を与える
     ↓
水槽を大きくして水量を増やしても、汚れの量自体は変わらない
     ↓
水量を増やしても、濾過器はそのままで良い

 はたしてこう言えるのでしょうか?
 実はそう単純でもないのです。
 さてさて、”濾過”とはいったいどういうものなのでしょうか。”濾過を充実させる”とはどういうことなのでしょうか?

濾過のヒミツ

 化学式や水質変化などの専門的な話題は書籍や他のホームページに優れたコンテンツがたくさんありますからそちらをご覧いただくとして、ここではちょっと違ったアプローチで、私を含め、初心者の方が勘違いしがちな基本的な事項の確認をしたいと思います。
 勘違いしがちな事項を、私がさらに勘違いして解釈している可能性も高いですが・・・。

その1 アンモニアだけを濾過するの!?

 YES

 生物濾過ではアンモニア→亜硝酸→硝酸の順に排泄物等を分解していきます。そう、アンモニアを徐々に毒性の低いものに変えていくのです。でも、排泄物の中身はアンモニアだけではないはず!?排泄物にアンモニアはもちろん含まれますが、尿酸、脂肪酸等や、時にはトウモロコシの粒が含まれることすらあります。
 結局、それらは比較的速やかに分解されて、すべてアンモニアになります。
 よって、生物濾過はアンモニアを濾過(分解)することが目的と考えて、大勢に影響ありません。

その2 小さな水槽ほど大きな濾過器!?

 YES

 アンモニアを好気性のバクテリアが亜硝酸、硝酸塩へと分解していくわけですが、もっとも重要なのは濾材の量(表面積)です。なぜなら、

  1. 一定の面積には一定の量のバクテリアしか住むことができない(繁殖できる上限がある)。

  2. バクテリア一匹一匹の能力はある程度決まっている(汚れが倍になっても、バクテリアの能力が倍になったりしない)。

からです。
 面積に応じてバクテリアが増える限界があることと、バクテリアの能力が一定であるからこそ、我々は、飼育生物の水の汚し方に応じてたくさんの濾材を用いたり、ひとつあたりの表面積の大きい多孔質濾材を用いたりして、必要なバクテリア量=バクテリアの繁殖面積を確保するわけ。
 これは濾過を考えるうえで非常に重要なポイントで、通常は濾過能力を決めるのはバクテリアの量=濾材の総表面積だといえます(十分なエアレーション等のバクテリアの活動条件は満たしているとします)。

 だとすると、ここに濾過が十分に機能した水槽があるとして、その水槽で飼育していた生物にさらに一匹追加した時は濾材の量も単純に倍にすればよいのでしょうか?逆に飼育生物はそのままで水槽サイズ(水量)を半分にした場合はどうなんでしょうか?

飼育生物を2倍にしたら?

 今、水量100の水槽で飼育中の生物が10の汚れを出した(フンをした)とします。
 濾過器のポンプは10の水とともに1の汚れを吸い込むとします。濾材には水が一度通過する時に1の汚れを濾過できる量のバクテリアが住んでいるとすると、濾過器は10の水と0の汚れを吐き出します。これを1サイクルとすると、10サイクルで汚れがすべて濾過できることになります。
 さて、生物を2倍にして出る汚れが2倍に増えても、濾材も2倍にすれば1サイクルで濾過できる汚れも2倍ですから、濾過にかかる時間は同じく10サイクルです。

水量を半分にしたら?

 一方、全体水量が半分の50になった場合を考えてみます。
 10の水とともに2の汚れを吸い込んで1の汚れを処理し、10の水と処理しきれなかった1の汚れを吐き出す。やはり1サイクルで濾過できるのは1の汚れであり、すべて濾過するためには同様に10サイクルかかります(水槽内の水は2循する)。なんだ、濾過にかかる時間は同じじゃん!

しかし濃度で考えてみると・・・

 ところが当たり前のことですが、汚れの濃度で考えるとそうはいきません(グラフ参照)。グラフで示すまでもなく、同じ量のフンをするなら、水量が少ないほうが汚れの濃度が高くなります。

 仮に、飼育生物の汚れに対するレッドライン(それより濃度が高いと徐々に弱っていってしまうという危険ライン)が濃度8%だとすると、水量100の場合は濾過の2サイクルで安全な濃度まで落ちますが、水量50の場合は6サイクルもかかってしまいます。

 原則として濾過能力が濾材の量で決まることは先に書いたとおりなので、もしも、水量50の時に水量100と同じ2サイクル目でレッドラインの濃度8%まで汚れを濾過しようとすると、計算してみると実に3倍の濾材を用意しないといけないことになるのです!(グラフ下段)

 いうまでもなく、これはかなり強引に単純化したモデルであり、実際の水槽内の現象とはかけ離れた面も大きいでしょうが、なんとなく雰囲気はわかっていただけると思います。

 要は、水量は多いほうが良いということは直感的に理解できますが、小さな水槽ほど濾過を充実させたほうが良いというのはイメージ的に逆(大きい水槽に大きな濾過器というのが普通)なため、誤解しないよう注意が必要というわけです。

 以上のことから、我々飼育者は、まず飼育する生物が瞬間的にどのくらいの汚れに耐えられるか(しきい値。これを超えると即死)知る必要があります。
 例えば、その生物が14%以上の濃度には瞬間的にも耐えられないのであれば、濾過のスタート時点ですでにその濃度を上回ってしまう水量50では飼育できないことになります。これは全体水量を増やす以外に対策はありません。

 次に、レッドライン以上の濃度にどの程度耐えられるかを知る必要があります。
 例えば、丈夫な種類であり10サイクル以上耐えられるのであれば、濾材の量は水量100も50も同じでよいことになります。

 アクアリウムの世界では、普通、しきい値とレッドラインをひとくくりにして「この魚は水質の悪化に弱い」などという表現をしますが、しきい値レベルがとくに高い(すなわち水質悪化に弱い)生き物であれば「まめな換水を心がけること」などと書かれたり、レッドラインが高い生き物(古代魚など)には「徐々の水質悪化ならばかなり耐えられる」という表現を見かけます。
 これらのことを手がかりに自分が飼育する生物の大体の性質を調べると良いでしょう。

その3 強力なポンプのほうが濾過能力も上!?

 NO

 上のモデルでは、濾過器のポンプは同じで中に入れる濾材の量を変えることで濾過スピードをアップしましたが、じゃあ濾材の量ではなく、流量、つまりポンプの吸い込み能力を2倍にすればスピードも2倍になるんじゃないかと考えることができます。
 しかし、答えはNO。
 もっとも大きな濾過能力が発揮されるのは水滴がポタリポタリと垂れる位だそうです。回転寿司を考えてみてください。すごいスピードでベルトが回転していてはなかなか食べられたものではありません。ゆっくりのほうが取りやすいです。バクテリアだって同じでは!?

 しかし、ポタリポタリが最適とはいえ、そんなスピードでは1サイクルの時間がかかりすぎて逆に濾過が追いつかなくなってしまいます。それで、市販の濾過器は程々の流量が設定されているのです。
 普通、濾過器は60cm水槽用、90cm水槽用といった具合に水槽のサイズ毎に用意されており、対象サイズが大きいほど、そのポンプの能力(吸い込むパワー)が高くなっていきますが、これは濾過の効率ではなく、対象水槽の隅々まで水流を行き渡らせるのに必要な流量を目安にして決めているのだと思います(中に入れる濾材の量が増えるので抵抗も増しますし)。

 繰り返しになりますが、酸素など、バクテリアの活動条件を満たした上では、流速が遅いほどバクテリアの活動には好ましいのです。

私の考える理想の濾過器像

 これらのことをふまえて、理想の濾過器について考えてみます。
 これを書いている時点で、私の60cm水草水槽には120cm用の外部濾過器が付いています。120cm用の濾材容量は魅力ですが、60cm用のポンプ能力があれば60cm水槽全体に十分水を行き渡らせることができるのですから、現在のポンプ能力は上述の回転寿司理論からいうと効率が悪くなるだけです(あくまでも濾過の上での話です。強い水流を好む生物を飼うのであれば別途強力なポンプを濾過器とは別に設置してもよい)。

 理想の濾過器の必要条件としては、

  1. 濾過槽を流れる流速は、できる限り遅くしたい(嫌気的にならない程度に)

  2. でも、単位時間当たりに多くの水を処理したい

 すなわち、パワーのあるポンプを使って吸い込む水の量はなるべく多くし、一方、濾過槽の通水断面を大きく取り流速を弱めれば良いのです。ただし、単一の濾過槽で通水断面を大きくしては、水の流れ方が不均一になる恐れがあるので、断面の小さい(細い)濾過槽を複数設置するのが良いと思います。そうして考えたのが、下図の濾過器です。

 自作も難しくありませんが、もっと簡単には小さい水槽用のパワーの低い(相対的に濾過槽も小さいが)濾過器を複数設置することです。私は60cm水槽に120cm用の濾過器をつけるのではなく、60cm用を複数台設置したほうが良かったと思います。

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