サンショウウオのたまご

 晩冬から春先にかけて、サンショウウオは産卵の季節を迎えます。
 サンショウウオは水中の小枝や石の裏などに1対(2房)の卵のうを生み付けます。流水に産むタイプを流水性のサンショウウオ、たまり水に産むタイプを止水性のサンショウウオと呼びます(止水性の中には多少流れのある場所に産むものもいる)。
 卵のうの端は、水中の小枝や石などにくっついています。くっついている側を付着端、反対端のくっついていない側を遊離端と呼びます。

かたち

 卵のうはサンショウウオの種類ごとに決まったかたちをしているので、サンショウウオの種類を特定する大きな手がかりになります。山渓ハンディ図鑑9「日本のカエル+サンショウウオ類」では、卵のう型を次の4つに区分しています。
(●=止水性、○=流水性)

アケビ型

 クロサンショウウオに特有の型。まるでおもちのような白い色をしていて、普通、中の卵の粒を見ることはできませんが、まれに透明だったり、内部に藻類が入り込み緑がかったものもあるそうです。

●クロサンショウウオ

バナナ型

 このタイプの卵のうには、細長いものや短いものなどがあります。
 また、ややねじれて次に示すコイル型に近いものもあります。

●キタサンショウウオ
●トウキョウサンショウウオ
●ハクバサンショウウオ
●カスミサンショウウオ(コイル型もあり)
○ツシマサンショウウオ
○オキサンショウウオ
○ブチサンショウウオ
○ヒダサンショウウオ ⇒ 「ヒダサンショウウオの卵のう
○ベッコウサンショウウオ
○オオダイガハラサンショウウオ

コイル型

 細長いひもを巻いたようになっています。ひもといっても、中途半端な長さしかありませんので、長〜いひも状のヒキガエルなどの卵とは容易に区別がつきます。

●エゾサンショウウオ
●トウホクサンショウウオ
●ホクリクサンショウウオ
●アベサンショウウオ
●カスミサンショウウオ(バナナ型もあり)
●オオイタサンショウウオ

ヤマブドウ型

 ハコネサンショウウオに特有の形。湧き水がしみ出す崖の奥や大きな岩の裏などに産卵するので、普通目にすることはありません。
 余談ですが、なぜ、単純にブドウ型ではなく”ヤマ”ブドウ型と名付けられたのだろう??

○ハコネサンショウウオ



 卵のう型別の種類数を右表にまとめました。流水性は、産卵場所が特殊なハコネサンショウウオを除いて、皆、バナナ型を産むことがわかります。

卵のう型 ○流水性 ●止水性
アケビ型 0 1
バナナ型 4 6
コイル型 0 6
ヤマブドウ型 1 0

 ちなみに、オオサンショウウオは上のどれでもなく、数珠のようにつながったひも型の卵のうを産みます。

 一房の卵のうの中に、いくつくらいの卵が入っているかはサンショウウオの種類だけでなく、産卵の時期や産卵場所の標高などによっても異なります。図鑑によると、大雑把に言って流水性で10〜20個、止水性で20〜100個くらい。オオサンショウウオなどは、1度に500個ほども産むそうです。

 また、よくサンショウウオの卵をアカハライモリの卵と勘違いされることがありますが、アカハライモリは、上のどのタイプでもなく、直径5mmほど(卵径およそ2mm)の卵を一粒ずつ水草や水中の枯葉などに産み付けます。

大きく膨らむ仕組み

 サンショウウオの卵のうは、それを産む親よりもずっと大きいです。クロサンショウウオの卵のうなど、握りこぶしほどあるものも。小さなサンショウウオが、どうしてあんなに大きな卵のうを産めるの!?実は産み出されてから、外側を包んでいる寒天質が水を吸って大きく膨らむのです。
 この寒天質はアルブミンというタンパク質を多く含み、浸透圧が高くなっています。これが、卵のうが水を吸う仕組みだと思います(水は浸透圧の低い方から高いほうへ浸透する)。
 私は、アルブミンにはもうひとつの役目があると考えています。実はアルブミンは非常に吸着力の強い物質だそうです。浸透圧で水が吸い込まれるときに、同時に有害な物質が卵のうの内部に入り込む危険性がありますが、その物質をアルブミンがいち早く吸着し、大切な卵細胞を守っているのではないでしょうか。

ヒダサンショウウオの卵のう


※いわささん撮影。提供ありがとうございました!

 3月初めに、新潟県のおとなり富山県のとある自然公園内にて撮影されたヒダサンショウウオの卵のうです。土手中腹の雪解け水が染み出ている窪みで見つけられたそうです。

 水に浸かっていた部分より空気中に出ていた部分の発生が遅れていたそうです。朝晩はまだまだ冷え込む季節。水中のほうが温度差が少なく相対的に暖かったからでは?と想像しましたが、どうでしょう。

止水性との違い


クロサンショウウオの卵のう

 止水性のクロサンショウウオは、渓流ではなく沼地のような水の流れのない場所(止水)に卵を産みます。卵のうの外見もヒダサンショウウオのものとは全然違います。
 また、クロサンショウウオでは、一房の卵のうの中に30〜40個もの卵が入っているのに対し、ヒダサンショウウオの場合は普通6〜15個で、多くても20個程度。そして、数が少ない代わりに、卵一粒の大きさが大きいのです。

 なぜでしょうか?それはヒダサンショウウオが渓流に卵を産む流水性のサンショウウオであることに関係があるようです。

流水性の卵はなぜ大きいか

 ヒダサンショウウオの幼生は孵化しても、すぐには卵のうから外に出ません。なぜなら、外は流れのある水。流されない体力を備えるまで育つ必要があるからです。それで、餌を摂らなくてもしばらくは卵のうの中で成長できるように、栄養のたくさん詰まった大きい卵で生まれてくるのだそうです。
 クロサンショウウオの場合は、孵化した時点で卵のうから外に飛び出します。飛び出した先は流れのない止水ですから、体力がなくても流されてしまうことはありません。流水性のヒダサンショウウオにとっては、卵のうの中が、止水と同じ環境を持っているといえます。

 もうひとつの理由として、沼地などの濁った水の中には、サンショウウオの餌になる生物がたくさんすんでいますが、水のキレイな渓流ではそうはいきません。そんな場所にたくさんの子供を産んでは、共倒れになってしまいます。ですから、流水性のサンショウウオは量より質。大きくて丈夫な子供を少しだけ産むわけです。
 一方の止水性サンショウウオは質より量とばかりに、たくさんの卵を産みます。孵化したばかりは小さくても、まわりにたくさんある餌をどんどん食べて、たちまち大きくなるのですから。

参考文献・・・ヒダサンショウウオの発生段階図表(秋田 喜憲)

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