サンショウウオの呼び名
サンショウウオは山椒魚?
天然記念物のオオサンショウウオをいじめると、肌のぶつぶつから乳白色の液体を出し、これが山椒の香りがするのだそうです。そして、水中で魚のように上手に泳ぐことから「山椒魚」と呼ばれるようになったという説があります。
でも、ちょっと腑に落ちない点もあります。オオサンショウウオが出す匂いが「サンショウウオ」という呼び名の大本であるなら、オオサンショウウオを単に「サンショウウオ」と呼び、小型のサンショウウオを「コサンショウウオ」とでも呼ぶのが道理じゃないでしょうか。
サンショウウオは山生魚?
サンショウウオという呼び名の由来についてメーリングリストで質問したところ、オオサンショウウオニュースレターの友田さんから詳しいお話を聞かせてもらいました。了解をいただいたので、以下に紹介します。
文化庁より生息状況調査に伴う現状変更(個体識別のために一時取り上げて計測、写真撮影等を実施する)の許可を得て、現場で調査観察しています。
オオサンショウウオを取り上げて計測等をしていると、白い粘液を体一面に出すときがあります。これは、体を触られるのがいやということなのでしょう。身を守るための粘液の放出です。
このにおいですが、独特の臭みのあるにおいです。山椒のにおいとは全く異なります。白い生ゴムのような液は、手袋等に付着するとなかなかとれません。ガムテープが絡まっている感じです。においも残ります。手や衣服に付いた粘液が乾燥しても2日〜3日はにおいがなかなかぬけません。
オオサンショウウオの解説にこのにおいが山椒のにおいそっくりであることからオオサンショウウオと名付けられたと書かれています。しかし、これは全くのでたらめです。実際に何人もの人ににおいをかいでもらいました。だれも山椒のにおいだと言う人はいませんでした。
では、オオサンショウウオの名前の由来は何でしょう。オオサンショウウオという名前は、比較的新しい言い方です。地方によってハンザキ、ハンザケ、アンコウ、ハザコなどと呼ばれています。篠山市に「安口」(ハダカスと読む)という地名がありますが、オオサンショウウオと関係があるようです。ハンザキの語源は、半分に切り裂いても生きているように思えるところからきているのでしょうがそれは実際にはそのようなことはなく、口が大きく、半分に裂けているように見えるからではないかと思います。また、一度かみついたら、雷が鳴ってもはなさないと言われています。昔の本には、オオサンショウウオのことを「波之加美以乎(はじかみいお)」「鯢魚(げいぎょ)」「魚帝(てい)」などと書かれています。
昔は、動物性蛋白源となる魚や肉の入手が少なかったので、貴重な蛋白源として食用にしていた地方も多いです。また、結核や下痢の治療薬としても食用にされていたようです。食べるまではしなくても、井戸や池の中に放しておくならわしがあるところもあります。
このようにオオサンショウウオは、昔から人々の暮らしとかかわりを保ちながら生きてきているのです。姫路市立水族館の栃本武良館長は、オオサンショウウオの名前を単純にサンショウウオの大きいものとして使っていると指摘しています。英語の"giant
salamander"の和訳がなされることも原因の一つではないかと述べています。彼自身は、標準和名は簡単明瞭がよいという考えで「ハンザキ」を使いたいという気持ちが強いようです。私は、「山椒」は、山に生きる「山生」であるという考え方をしています。その大きなものとして大山生魚と漢字を当ててみました。
友田 規隆 Tomoda Noritaka
オオサンショウオニュースレター(ホームページ)
http://www2t.biglobe.ne.jp/~tomoda
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和名の由来を示した文献
文献 |
由来 |
本朝食鑑 |
山椒の樹皮をかぶっているようだから |
大和本草 |
山椒の木にのぼり、その樹皮を食べる(といわれている)から |
重修本草綱目啓蒙 |
においが山椒に似ているから |
日光山誌 |
山に生じる魚だから |
中国語でサンショウウオは?
「サンショウウオ」という呼び名の語源について調査を進めるうちに、気がついた点を紹介します。
漢字が中国から伝わったのなら、サンショウウオ(山椒魚)という単語も、中国から伝わったのかもしれません。だとすると、「山椒魚」の語源の秘密は中国語が解き明かしてくれるのでは?そんなふうに考え、中国語を調べてみました。
中国語ではどういうの?
中国語でサンショウウオをどう書くか、小学館の辞典で調べました。答えは単純。それは、「山椒魚」(魚という漢字は中国語ではちょっと形が違いますが)。なんてことはない、中国でも山椒魚は山椒魚でした。
しかし待ってください。私は続いて、小粒でもピリリと辛いほうの「山椒」をどう書くか調べてみました。すると意外な事実が。中国語では山椒を「山花」と書くのです。
つまり、山椒の匂いがするという意味なら、中国語では「山花魚」と書く必要があることになります(小学館「日中辞典」)。
物の本によると、日本語の「山椒」には”きつい匂い”という意味もあるそうです。山椒の匂いという意味でなく、きつい匂いを出すという意味で、山椒魚と名づけられた可能性もあります。
結局わからない
はたして「サンショウウオ」に関しては日本語が先か中国語が先か!?
未だ決め手には出会っていませんが、こうして色々なことを考えながら、「山椒魚」の語源の秘密に思いを馳せている今日この頃です。
様々な地方名
サンショウウオには、様々な地方名があります。
地方名 |
よみがな |
備考 |
油魚 |
あぶらめ |
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椒魚 |
はじかみうお・はじかみいお |
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鯢魚 |
げいぎょ |
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はたけどじょう |
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(奈良県) |
やまいもり |
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カスミサンショウウオ
(広島県比婆郡高野町) |
かく |
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ブチサンショウウオ |
かくうお |
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ブチサンショウウオ |
しちぶしょう |
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ブチサンショウウオ |
やぶどじょう |
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(滋賀県) |
とことこ |
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(長崎県壱岐島) |
さんそかじか |
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(青森県) |
うんなんそう |
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(秋田県) |
さんしょうかじか |
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(山形県) |
いわいもり |
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( 〃 ) |
さわいもり |
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( 〃 ) |
おかいもり |
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( 〃 ) |
せんがんにょ |
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( 〃 ) |
せがんにょ |
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( 〃 ) |
せんがんむし |
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( 〃 ) |
せんがんじょ |
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( 〃 ) |
へがよ |
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( 〃 ) |
やまかじ |
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(東京都、埼玉県) |
参考文献・・・世界大博物図鑑3(荒俣 弘)
広島の両生・爬虫類(中国新聞社)
トウキョウサンショウウオ(金井 郁夫)
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