幼生の飼育

 クロサンショウウオは卵から生まれると、手足がなくフサフサとしたエラ(外鰓がいさいという)のある幼生時代を経て、やがて手足が生えてエラがなくなり、陸上生活に移ります。

 ここでは、卵〜上陸までの飼育についてお話します。

孵化するまで

卵のう

 クロサンショウウオは、片側に10〜70個(通常30〜40個)の卵が入った卵のうを1対(2房)水中の木の枝などに産み付けます。これが全て無事孵化すれば全部で20〜140匹(!)。

 もし、野外で卵のうを見つけて持ち帰ったのであれば、孵化したら飼育できる匹数だけを手元に残して、後は元の場所に返しましょう。飼育数は少な目のほうが観察が行き届き、世話も楽です。


2対(4房)の卵のう

 なお、@水深の浅い所にある卵のうは中の卵数が多く産卵の時期も早く、A深い所にある卵のうは卵数が少なく産卵の時期も遅い、という相関関係があるそうです。採取のときの参考にしてください。

卵のう水槽

 卵のうを入れておく水槽は下図のとおりです。
 特に大きな水槽は必要ありませんが、孵化後も同一水槽で飼育することを見据え、この時点で大き目の水槽を用意しておいたほうが、水質の維持等にも有利です。

  • 60cm標準水槽が安価でオススメ。

 底に砂利を入れる必要はありません。汚れがたまりやすく、孵化した幼生が餌を食べる際に誤って砂利を一緒に吸い込む危険があります。ともすると繁殖池に似せて泥を敷きたくなるかもしれませんが、管理が大変なので自信のある人意外はNGです。

 水草(マツモ・アナカリス等)を入れると、多少水質の維持にプラスになり、見た目にもさわやかに。ちょっとした隠れ家となり、たくさん入れれば孵化後の幼生の共食いを抑える効果もあります。

濾過

 孵化するまでは餌を与えないので水質の悪化は緩やかですが、濾過器で水面を多少揺らし、溶存酸素量を確保することにも意義があるので、設置することを強く薦めます。

 クロサンショウウオは水の動きの少ないたまり水に産卵するので、水流が強くて卵のうが揺れ動くような濾過方法は適しません。

  • 強い水流の起きないスポンジ濾過が手軽で便利。

 設置の際は、できるだけ水流を弱めるために、エアの吐出口をガラス面に向けることがポイントです(前出の図を参照)。

水温

 適した水温は、人間にとって涼しく過ごしやすい(やや肌寒い)室温と同じくらいと考えてください。

  • 常温〜25℃未満が目安。

 なるべく低目を維持することに留意して、高くても25℃を超えないことが好ましいと思います。逆に、水温が低いからといってヒーターをセットする必要はありません。

 暑い日には注意!日中水温が30℃を超えるような日が続くと人間もキツイですが、暑さの苦手なサンショウウオには命に関わります。水槽をクーラーの効いた部屋に置くか、せめて換気扇を常にまわしておくなど、気を使ってあげてください。直射日光があたる場所に置いたり、締め切った部屋に置いておくと、自然界の広い池と違って、小さな水槽の水はアッという間にぬるま湯に。生まれる前に全滅しますよ・・・。

 日ごろの世話としては、まめに水温計をチェックしながら、気が向いたときに少量の水換えを行えばOKです。ただし、卵のうは刺激に弱いので水換えはそ〜っと丁寧に!

幼生が誕生!

 やがて、卵のうから1cmほどの幼生が飛び出します。いよいよ本格的な飼育のスタート!
 かなり丈夫な生き物です。毎日観察をして、丁寧に水換えをして、適した給餌をするという、あたりまえの世話を怠らない限り、死なせてしまうことは少ないはずです。

幼生水槽

  • 卵のう時代と同じ水槽で、引き続き飼育します。

  • 共食いに注意。

 水槽が狭いほど出会い頭の共食いが頻繁に発生します。共食いを許すかそれとも隔離飼育するか、どちらを選ぶかは飼育者の考え方次第であり、悩むところです。共食いさせたほうが自然な状態であり、強い幼生を選別できるという、飼育者にとってのメリットがあることは否定できません。
 私としては共食いは避けたいので、餌を頻繁に与えて命に関わる共食いは100%防いだ経験がありますが、あくまでも、それは”賭け”。共食いを完全に防ぎたいなら、1匹づつ隔離して飼わなければなりません。それには、水槽の中に隔離ケース(園芸用ネットを格子状に組んだり、プラスチックのパックやペットボトルの底を切り取ったものに通水用の小さな穴を開けたものなど)を設けると良いでしょう。

濾過

  • スポンジ濾過を引き続き使用。

 水換えは、卵のう時代より頻繁に行う必要があります(餌を食べ、フンも出すため)。
 1度に全ての水を換えると水温や水質が急変して良くないので、多くても1/3程度を目安に、気が向いたときに行います(できれば週に2回程度)。 濾過装置をつけていない場合は、さらに頻繁に(毎日でも)行う必要があります。
 なお、小量の水換えでは、カルキ抜きや重金属の中和などは特に必要ありません(汲み置き水ならベスト。卵のう育成時も同様)。

 どうも、水質管理に無頓着な飼育者が多く見受けられます。その結果、水質の悪化が引き金となって幼生を死なせてしまっています。次に説明する水温を含め、水の管理を飼育の最重要項目と位置づけてください。

水温

  • 常温〜25℃未満が目安。

 水温は、卵のう時代と同様です。クロサンショウウオの幼生は自然界でも温まりやすいたまり水にいるため、高水温にも比較的よく耐えてくれます。
 とはいえ、死なせてしまう原因は、水温の異常上昇がダントツだと思います。時期的に特に暑い日が続く頃なので十分に配慮してください(私にも小学生の頃に失敗経験があります。採ってきた卵のうを、あろうことか温度変化の激しい玄関の下駄箱の上に置いておいたため、夏の暑さですべて死なせてしまったのです。小学生の頃は、飼育に関する勉強をすることなしに生き物を捕まえてきて飼っていたので、よく死なせてしまったものです・・・)。

手足が生えたら

 はじめに手が生え、続いて足が生えてきます。エラがなくなるのは最後。だんだんとエラが小さくなり、顔つきが丸く小さくなって別人のようになってきます(変態という)。
 こうなったら上陸も間近ですので、水から上がれる場所を用意するとともに、脱走を防ぐためのフタをしなければなりません。

  • 上陸用の陸地を用意する。

  • 必ずフタをする。

 いままでの水槽に新しく陸地を設けても良いのですが、簡単なのは水槽をもうひとつ買ってきてハイドロボールを敷いて陸地を作り、上陸用の水槽を用意することです。手足が生えそろってエラが小さくなってきた幼生から順に、臨時水槽の方に移していくのです(上陸時期にはわりと差があるので、よく観察すること)。

 上陸したサンショウウオは、ガラス面を上手に登りたやすく脱走するので、フタが絶対に必要です。(ネットなど通気性の良いものを。)

 念のため、幼生水槽のほうにもフタをして、発泡スチロール板や浮き草(ホテイアオイ等)を浮かべておくと、万が一上陸用水槽に移すのが遅れた場合に役立ちます。ただし、これはあくまでも応急措置。私はホテイアオイを浮かべて放っておいて、一匹溺死させてしまった経験があります。くれぐれもご注意を。

 上陸用水槽は、すべての個体が上陸完了後、ハイドロボールを水平に敷きならすかさらにハイドロボールを足して水場を埋め立て、引き続き成体の飼育水槽として利用します。

 続いて、幼生の餌について紹介します。

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