サンショウウオのための水路作り

 山すそや里山にあるコンクリート水路や道路側溝に落ちて這い出せなくなり、溺死したり日干しになって命を落とすサンショウウオは相当数に登ると考えられています。
 自然保護の機運の高まりの中、このような不慮の事故を減らすため様々な工夫がなされるようになってきました。今後さらに水路のバリアフリー化を進めるための小さな工夫をまとめました。

安価に脱出路を設ける

 小動物の脱出路として、スロープ付きの水路が開発されています。徐々に普及しつつありますが、製作工場が近くになく入手が難しい地域もあり、製品自体もまだ割高感があります。そこで、もっと一般的な製品を用いて安価に脱出路を作る方法を考えました。


掛口、分水口と呼ばれる製品。
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コンクリートでふさぐ。

 上図は「掛口」あるいは「分水口」などと呼ばれる製品で、水路の分岐点として普及しています。この一方をふさいでコンクリートでスロープを作り、脱出路にしようというアイデアです。かなり急なスロープになるため実際にサンショウウオが利用できるか不安があったのですが、トウキョウサンショウウオが垂直の角を登れることを知りその不安は消えました。
 施工方法は通常の水路と同じように据付け、裏側を型枠でふさいで生コンを打設するだけ。スロープの表面は、ハケなどで荒く仕上げてください。

脱出路に導く

 脱出路を設けても、サンショウウオがそれを見つけることができなければ役に立ちません。脱出路の利用率を上げるために、脱出路に導く工夫が必要。

 サンショウウオは、歩いているときに壁に突き当たるとその壁に沿って移動するという性質があります。そこで、右図のように角材などを”間仕切り”として水路の底にはめ込んでおくことで、脱出路に誘導できる確率が上がると考えました。


間仕切りを押し込んで設置。

避難所を作る

 以上のようにして安価な脱出路をできるだけ多く設け、脱出路に導く工夫を行ったら、次は水路に落ちてしまったサンショウウオが命を永らえ、脱出の機を伺うことができる「避難所」の設置を検討します。ただし、サンショウウオの生息地は里山や山間地なので、サンショウウオに配慮すべき水路は、必然的に、落葉落枝や土砂が入りやすいという悪条件を抱えています(逆にそれが天然の避難所になることもある)。その水路にわざわざ余計なものを入れて水理的に不利にするわけですから、その設置位置は周囲の条件をよく考えて検討しなければなりません。

 上図は、石や木片を積んで作る「避難所」です。普通、水路は数年に1度しか降らないほどの大雨が降ってもあふれることがないように、幅や深さに”余裕”を持たせているので、この”余裕”の範囲内で「避難所」の規模を決定します。
 でも、それだと、数年に1度の大雨が降ったときにはあふれてしまうのでは!?いえいえ大丈夫。なぜなら、大水が流れたときには避難所もろとも押し流されるように作るからです。(ぷ)

 方法は、あらかじめ水路勾配及び最大水深ごとに、その条件で水に押し流されるように粒径等で選り分けた材料を各タイプ用意し、それぞれの現場条件に合わせて用います。右表は廃木材及びコンクリート廃材を砕いて作った製品例で、Aタイプを勾配1/500の水路内に積むと、深さ20cmを超える水流で押し流される避難所が作れるというイメージ。
 念のため、押し流された材料が他の場所で詰まり、そこからあふれてしまうことのないよう、枡(ゴミためになる)の上流部に配置するなど配慮します。

規格一覧表(イメージ図)
水路勾配 最大水深 適合規格
1/500 20cm Aタイプ
1/500 30cm Bタイプ
1/500 40cm Cタイプ








枡の快適性をアップする

 水路に落ちたサンショウウオは、枡の中で発見されることがほとんどです。水の流れていない水路では日干しになり、死骸はアリなどに運ばれてしまいますが、枡には水が残っていることが多く、生き残る可能性が高くなっています。
 そこで、枡の底を深くして、そこに石を詰めた鉄籠を設置するという方法で、枡をさらに快適に利用してもらうことを考えました。

 よく用いられている製品に、右図のような組み立て式の枡があります。中段の部品をいくつか重ねることで、好きな深さの枡を作ることができるというものです。
 例えば「上−中−上−下」と重ねて底に石を積めた鉄籠を沈めると、下図のイメージになります。


通常より底を深くする。

 このようにすると、深い枡で水が枯れにくいだけでなく、鉄籠の石の隙間がサンショウウオの隠れ家になり、日照りが続いたときに日光をさけるシェルターになります。


重ねて使う。

上流側に枡を追加。

 ただし、土砂の混入が多い水路ではすぐに泥が溜まって目詰まりを起こし、用を成さなくなってしまうことが欠点。目詰まりしたときに取り出して掃除をしやすいように、石を鉄籠に入れるようにしました。
 根本的に泥の問題に対処するには、少しお金はかかりますが枡を連続配置する方法があります。

水路の途中に水場を作る

 枡を設ける必要がない直線部にも、水路自体に水場を作り、生存率をアップさせることを考えました。


なだらかな凹凸がある地形条件。(凹凸を強調したイメージ図。)

 上図は、斜面を横から見た図です。このような地形で、A地点からB地点まで水路を作る場合、通常、なるべく安価に作るため最短距離を直線で結びます(下図)。


なるべく安価に作るため、最短距離を結ぶ。

 それを、下図のようにわざと逆勾配の区間を残すことで所々に水溜りができ、干からびて死んでしまうサンショウウオを助けることができます。泥さらいなどの管理を怠らなければ、幼生の生育場所にもなり得ます。深さの違う水路を組み合わせて作るのも手。


あえて波打たせて水が溜まる場所を作る。ただし、たわみ部分であふれないよう通水断面を要検討。

一部に深い水路を用いて水が溜まる場所を設ける。こっちのほうが良さげ?

はじめから水路に落とさない

 実は、これが一番大切な視点だったりします。一番手っ取り早いのは水路にフタをすることですが、維持管理の手間(何かが詰まったときに困る)が生じます。

 水路の上端が地面から突き出すように設置することで、サンショウウオが落下する危険を減らすことができます。両脇に水道みずみちができないように、植生土のうなどで保護すると良いでしょう。
 山すその水路は斜面から流れてくる水をキャッチする役目があるのでこのような方法は取れませんが、平坦な区間では有効だと思います。


地表まで埋めない。

 ただし、水路を渡れないようにするということは水路が生息地を完全に分断するということを意味します。水路の延長や両側の現況を良く見て検討する必要があります。

今できること

 この記事のタイトルの「サンショウウオのための水路作り」というのは実はウソで、本当はあくまでも「人間のための水路作り」です。「水路としての機能を落とさないこと」「経費を安くあげること」「維持管理の手間をできるだけ減らすこと」のすべてを満足するアイデアは今のところなく、サンショウウオの負担を少しでも減らす方法を考えるだけで精一杯・・・。
 でも、できることから、やる。

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