2002年8月

2002. 8. 5 再生完了!?
2002. 8.17 第4回両生類自然史フォーラム その1
2002. 8.24 第4回両生類自然史フォーラム その2
2002. 8.29 第4回両生類自然史フォーラム その3

2002. 8. 5 再生完了!?

 左腕はその後も順調に再生が進み、いよいよ指も形成され始めました!・・・というのは、実はもう10日以上も前のことでして(写真7/26)、現在はほとんど元通りに再生しているはずです。
 はずです、というのは、2匹を幼体ケースから出して成体たちと一緒の水槽内に放したところ、流木の小さな隙間にもぐりこんでしまい、よく観察することができなくなってしまったのです。餌なら待っていれば運んできてくれる人がいますし(- -;)、全然出てこようとしません。

給餌はひと苦労


サンボ?


ちびくろ?

・・・ついに見分けがつかなくなった。

 流木のわずかな隙間にピンセットを差し込んで餌を与えるのは、なかなか疲れる作業です。手先がブレると、餌が流木にくっついてしまうし、押し込みすぎると顔を突いてしまう。まるで誰かの耳そうじでもするような慎重さが必要です!

 でもそんな苦労に、2匹ともなかなかの食欲で答えてくれます。
 サンボは、幼生時代は左腕を共食いされたダメージからか食欲不振な時期がありましたが、上陸後はすごい食欲。早く腕を治すためエネルギーを補給しているかのようです。
 逆にちびくろは、今ではサンボと変わらぬ大食らいですが、はじめの頃はかなり小食でした。
 野生下において、上陸した幼体は、まずは安全で居心地のよい住処を探して移動を始めるそうです。一刻も早く住処を見つけないと命が危ないので、餌を食べることは二の次になります。それで本能的に上陸後しばらくは食欲がないのだそうです。

2002. 8.17 第4回両生類自然史フォーラム その1

 先月の27日、富山県の富山市科学文化センターにて第4回両生類自然史フォーラムが開催されました。4つの特別講演と4つの一般講演のうち、3つもクロサンショウウオの話題があり、私にとっては感動的にすばらしいフォーラムでした。
 今回から3回に渡りその模様をご紹介します。

※以下で使っている画像は全て発表で使われたスライドや資料を撮影したものです。

特別講演「クロサンショウウオの生態」 中藪俊二(富山県高岡龍谷高校)

 クロサンショウウオ研究の大家、富山県高岡龍谷高校の中藪先生による講演です。私などは、先生の講演が聞きたくて、今回のフォーラム参加を決めたようなものです。

 講演は、中藪先生が顧問をされている理科部におけるこれまでのクロサンショウウオ研究成果の概要を、いっぺんに紹介するような内容で、それはもう大満足でした。


スライドで講演する中藪先生

 研究成果は、詳しくは当HPのリンク集からもリンクさせていただいているリアルコミュニケーションスペース「バーチャル」で公開されていますので、ぜひご一読をオススメします(10年度、11年度、12年度の最優秀賞作品としてクロサンショウウオの研究成果が紹介されています)。
 以下には、上記のHPと重複する内容もありますが、実際にお話を聞いた中で興味深かった話題について紹介したいと思います。

雌雄の判別

 繁殖期以外でも、以下のような特徴で雌雄の判別が可能だそうです。

  オス メス
頭部の形状 ホームベース型 卵型
前足の第2指 内側に少し湾曲 まっすぐ

 なお、クロサンショウウオのオスは繁殖期に頭部が膨らむといわれますが、その典型的な個体のスライドも紹介してくださいました。別の生物かと思えるほど頭部から上半身にかけて変形しており、度肝を抜かれました!!!
 写真を撮ったのですが誤って消してしまったので(泣)、私の絵で勘弁してください。

産卵のタイミング

  • 産卵は雨(10ミリ以上)の翌日に行われる。35ミリの雨で、一気に産卵が進む。

  • 翌日の天候が暴風(5メートル以上)の場合は、産卵は行われない。

 野外観察だけでなく、以下のような設備で飼育しているクロサンショウウオにジョウロで水をかけたところバッチリ翌日に産卵が行われ、産卵のタイミングは実験的にも確認できたそうです。

 ちなみにこの飼育設備をスライドで見せてもらいましたが、2つの衣装ケース(プランター?)をガムテープでくっつけて自作したもののようです。いや〜すばらしい(^^)。

 左写真は早春の氷の張った池。解けた氷の下にのぞいている白いのがクロサンショウウオの卵のう。

 これは、撮影のために氷に穴を開けたのではありません。産卵に集まったサンショウウオ達の群れ(通称サンショウウオ団子)の動きで水流が起こり、暖かい水が押し上げられ水面の氷が解かされたのです。

 春先クロサンショウウオの繁殖池では、このように所どころ池の氷が解けている様子が観察できるそうです。大自然の神秘!

孵化について

  • 産卵から孵化までの日数=−5×平均水温+79

  • ソメイヨシノの開花の時期が、幼生の孵化のピーク!

  • 水温が高くなり溶存酸素量が少なくなることが孵化の引き金か。

 ソメイヨシノの開花にあわせて幼生が孵化するなんて、なんとも粋ではあーりませんか。

上陸した幼体の移動

  • 上空が暗いほうへ暗いほうへと向かって分散していく。

  • 産卵池からもっとも遠いところで、334.91mまで移動。

  • 産卵時には、高い確率で元の池に戻ってくる。

 サンショウウオは光が苦手で光を当てると暗がりに逃げますが、上陸後の幼体の分散もそれが要因になっていたとは考えもしませんでした。幼生の移動ルートを示したOHPと、相対照度の低いルートのOHPを重ね合わせ、2つがピタリと一致したときは感動を覚えました。
 野外で成体を探すときには、まずは繁殖池のほとりに立ち、空を見上げて暗いほうへ向かって歩けばよいでしょう!

 逆に産卵のときにどうやって元の池に戻ってこれるのかについては、今後の研究課題とのことで、いくつかの説があるようですが、まだ実験では確かめられていないそうです。
 今後の研究成果に超期待!

 ぜひ名刺の一枚も渡したかったのですが、中藪先生は休憩時間中も大人気で、会話に割り込む隙がありませんでした(;;)。

次回予告

 長くなりましたが、フォーラムの紹介その1を終わります。次回は、特別講演の残り3題と、一般講演で最初に行われたクロサンショウウオの”歯”の研究成果についてレポートする予定です。

2002. 8.24 第4回両生類自然史フォーラム その2

 第4回両生類自然史フォーラムのレポートの続きをお送りします。

※以下で使っている画像は全て発表で使われたスライドや資料を撮影したものです。

特別講演「福井県のアベサンショウウオについて」 

長谷川巌(福井県両生類爬虫類研究会)

 アベサンショウウオは、レッドデータリストで絶滅危惧TA類(ごく近い将来に絶滅の危険性が極めて高い種)に区分されている貴重な両生類です。この特別講演では、分布調査の結果が紹介されました。調査中には、アベサンショウウオを捕まえにきた悪質なマニアに間違えられてしまったりという苦労もあったそうです。
 調査の結果、平成18年度着工予定のダム建設で多数の産卵地が水没してしまうことや、すでに進められている道路工事で、貴重な生息環境が荒らされる危険があることがわかりました。移植等の保護対策が検討されているそうです。


アベサンショウウオの卵のう

 我々は、開発行為で生息域を奪われるのはアベサンショウウオだけではないことを忘れてはなりません。「絶滅危惧種を保護する」だけではなく「絶滅危惧種をこれ以上増やさない」ことに、もっと力を注ぐべき時代ではないでしょうか。

特別講演「蛙造型物:集から民族的考察へ」

−フィールドワークとしてのイベント開催から考えたこと−
高山美穂((有)K&Kフロッグ事業部)

 これまでのマニアックな話題とは打って変わり、作家の高山ビッキさんによるカエル文化についての講演です。
 カエルは同じ両生類でもサンショウウオと違って市民権を得ているので、巷にはたくさんのカエルグッズがあふれています。高山家はおじいさんの代(!)からのカエルグッズのコレクターで、三代に渡って集めに集めたその数なんと!忘れた。忘れちゃったけど、確かものすごい数でした・・・。


カエルにデザインした小石。
「小石=恋し」にかけている。

 6月6日はカエルの日だって知ってましたか?(ケ → ケ66
 今年この日にちなんで、高山さん姉妹(お姉さんは(有)K&K社長)の企画で、カエルにゆかりのある小物やおもちゃ、美術品を一堂に集めた「京都に・恋し・カエル」展が開催されました。

 ・・・いいなぁカエルは人気があって。

お昼休み

 ここでいったんお昼休みです。そのとき私を呼び止める声が。なんと第40回爬虫類両棲類学会のときに知り合ったYさん(山椒大夫さんのお連れの方)ではありませんか!おー、久しぶり!
 この日は別のお友達と来られており、私も昼食をご一緒させてもらいました。お二人とも仕事の関係でサンショウウオの調査にも関わっており、参考になる話がたくさん聞けました!

特別講演「両生類の生殖腺を支配する下垂体ゴナドトロピン」

田中滋康(静岡大・理・生物)

 題名からして難しそうだったし、私はご飯を食べて眠くなっていた。

一般講演変態期クロサンショウウオの歯胚構築の変化とアメロジェニン蛋白の発現

石山巳喜夫1・熊倉雅彦21日本歯大・新潟歯・第二解剖、2第一解剖)

 これも題名を聞いただけで怖気づいた。でも、クロサンショウウオの話なのでがんばって聞いてみた。

 写真左は幼生の歯。右が変態後の歯です。変態後は二つの山型になっていて、幼生のものとは一目で違いがわかります。餌を採るときに、幼生は水と一緒に吸い込みますが、上陸後は舌にくっつけて口に引きずり込みます。確かに、このとき歯に凹凸があったほうがしっかりくわえることができそう。


左:変態前の歯
右:変態後の歯

 そんなわけで、発表の主題であるアメロジェニンがどうとかエナメル質がこうとかについては、まったく理解できなかったものの(^^;、変態期に起こる歯の変化は興味深かったです。

 ・・・しかしこの歯の特徴が、続いて発表された驚愕の講演「新潟県で捕獲したクロサンショウウオのネオテニーについて」(!!!)で重要な意味を持つことになろうとは、このときはまだ知る由もなかったのである。

続く。

2002. 8.29 第4回両生類自然史フォーラム その3

 3回に渡ってお送りしてきたフォーラムのレポートもいよいよ最終回。フィナーレにふさわしいオドロキの講演について紹介します。

※以下で使っている画像は全て発表で使われたスライドや資料を撮影したものです。

一般講演「新潟県で捕獲したクロサンショウウオのネオテニーについて」

熊倉雅彦1・吉江紀夫2・小林寛11日本歯大・新潟歯・第一解剖、2第二解剖)

 ネオテニーとは、幼生の特徴を残したまま大人になり、繁殖能力を持つ珍しい現象です。有名なウーパールーパーはメキシコサラマンダーのネオテニー個体であり、フサフサした外鰓を持ったまま、変態することなく卵を産んで子孫を残します。

 日本でも北海道の倶多楽湖(クッタラこ)でエゾサンショウウオのネオテニー個体群が見つかっています(大正13年)。しかし、その後昭和7年に見つかったのを最後に絶滅してしまったようです。

 ウーパールーパーもペットショップではよく見かけますが、野生では多くの生息地ですでに絶滅。現在はメキシコのソチミル湖とその周辺運河に生息するのみという、りっぱな絶滅危機動物です。

 そこにきて、クロサンショウウオのネオテニー発見のニュースですから、驚いたのなんの!もちろん国内初。もったいぶらずに紹介することにしましょう。


上:通常
下:ネオテニー


ネオテニー個体を横から見たところ。
尻尾が水棲化しているようだ。

 上は通常の個体。下が発見されたネオテニー個体です。外鰓がはっきりと残っています。驚愕・・・。

性別 オス
全長 14.8cm
頭胴長 7.3cm
体重 9.7g
肋条 11本
外鰓の最大長 5.3mm

 

 やはりネオテニー君は速攻で解剖されてしまいました(;;)。

 黄色く目立っているのが精巣(精子を作る器官)。その下の白くてグニャグニャしたのは輸精管(精子を送る管)だそうです。
 解剖の結果、次のようなことがわかりました。

  • 精巣の表面が凸凹してザラついた感じになっている。これは成熟したオスに見られる繁殖期の特徴。

  • 精巣と輸精管に、バッチリ精子が見つかった。

 さらに、この個体の歯は山がひとつでした。前回レポートしたとおり、それはまさしく幼生の特徴なのです。

 外鰓の存在や歯の形状など、幼生の特徴を備えているくせに、繁殖可能な大人。間違いなくネオテニーです。まったく関係ありませんが、私は少年の心を持ったまま体だけオトナ(はあと)。


黄色いのが精巣

 では、このような珍しい現象がなぜ起こったのでしょうか。

 右写真は頭部の解剖図(腹側)。下あごを除去した状態です。
 通常、変態前には○で囲んだあたりに甲状腺が発達してくるそうですが、ネオテニー君には見当たりません。
 甲状腺は、変態を促すホルモンを分泌する重要な器官。この発生異常が、ネオテニーの原因だそうです。

 では、どうして甲状腺の異常が引き起こされたのでしょうか。

 思わず環境ホルモンだとか農薬だとか、そんな言葉が頭をよぎりました。何でもかんでもそういうものに結び付けたがるのは、もはや条件反射です。真の原因は、今後の研究で徐々に明らかになっていくでしょう。続報が楽しみです!


甲状腺が未発達

一般講演「富山県におけるサンショウウオ類の生息状況」

−ホクリクサンショウウオを中心として−
南部久男1・福田保2・荒木克昌3・西岡満4・堀口政治5・森大輔51富山市科学文化センター、2富山西高校、3アースコンサル(株)、4高岡古城公園動物園、5富山市ファミリーパーク)

 富山県に生息するサンショウウオの生息状況や産卵場所がスライドで紹介されました。放棄水田がサンショウウオの産卵場所の40%を占めていたなど、興味深い話題があったのですが、直前の講演の興奮がまだ冷めておらず、いまいち頭に入りませんでした。残念・・・。

一般講演「カエル卵の卵割時の光放射の測定」龍崎正士(北里大・医・生物)

 カエルの卵が卵割するとき、そのエネルギーの一部は微弱な光となって卵の表面から放射されるそうです。これを光子を測定する特殊な装置で調べたという話でした。が・・・研究の意図からして一般人には理解不能(-_-;)。
 龍崎先生が講演の中で、光子を測定する装置のことをフォトマル、フォトマルと連呼するので、てっきり製品名が”フォト丸”というのだと思ったのですが、後で資料を見て「フォトマルチプライヤー」を略して言っていたとわかりました(笑)。

 これで第4回両生類自然史フォーラムのレポートを終わります。
 この日は湯治で有名な北山鉱泉のホテルに一泊してのんびり。翌日は近くの魚津水族館を見学してから新潟に戻りました。
 お隣の県への小旅行は、とても充実した2日間でした(^^)。

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