2007年5月

2007. 5.20 流れのある産卵場所

2007. 5.20 流れのある産卵場所

 クロサンショウウオは、たまり水など、ほとんど流れのない場所で産卵をする”止水性のサンショウウオ”の代表格です。実は、例外的に、流れがある場所でも産卵するのですが、図鑑などで紹介されている産卵場所は下表のとおり。唯一”沢のよどみ”という表現がわずかな流れの存在を感じさせる程度です。

文献における記載例
文献 記載内容
日本のカエル(山と渓谷社) 「止水性で産卵場所は、池や沼、湿地や水たまり。」
日本野生動物(山と渓谷社) 「水田、沢のよどみなどに産卵する。」
日本の両生爬虫類(平凡社) 「産卵場として主に池や沼、水田、沢のよどみなどが使われる・・・。」
新潟県陸水動物図鑑(新潟日報事業社) 「山地の湿地、池沼、水たまり、住宅近くの防火用水などに入り、・・・、産みつける。」
これからの両棲類学(裳華房) 「たまり水などの止水に産卵するもので、クロサンショウウオ(hynobius nigrescens)や・・・。」
日本産有尾類総説(第一書房) 「産卵場所は湖沼、小瀦水域或は雪解の水の溜った小窪地など何れも静水であるが、・・・。」

 先日(てゆーかすでに2ヶ月近く前の3/29(^^;)、けっこう珍しい流水中の卵のうを見つけたのでご紹介します。

ダム上流に産卵した例

 ダムの上流側にあった枯れ枝に産み付けられ、水流にたなびく卵のうを発見!しばらく大雨もなかったし、洪水でどこかから流されてきたものとは考えにくい。お〜、ラッキー。
 ダム背面は土砂がたまって勾配が緩やかになり流速は弱まっているとはいえ、絶えずそれなりの流れがあります。孵化した後ぼけっと浮いていたら、あっという間に流されて下流に一人雪崩式フランケンシュタイナーです。


ダム上流の様子

それなりの流速がある

順調に育ってる?

ダム下流に産卵した例

 別のダムでは、直下の滝つぼ状の場所に卵のうが産み付けられていました。この冬は小雪で融雪水も少なく、落下する水の勢いはたいしたことありませんでしたが、それでも、卵のうは水流に翻弄され、揺れまくっていました。


落下水で水がかき混ぜられる!

ここでも卵のうを発見!

 繁殖時、クロサンショウウオは”波たて行動”という求愛行動を行うことが知られていますが、このように常に水面が波立っている中で、よく上手に繁殖が行えたものだと思います。それに、サンショウウオは体外受精なので流水中では射精後すぐに洗い流され、受精率がガクッと落ちてそうです。

これからのダム作り

 冬も終わりに近づいた穏やかな夜更け前、繁殖にやってきたクロサンショウウオが、雪解けで増水した流水でもみくちゃにされつつ、「わっ、わっ、わっ!」とか焦りながら必死に卵のうにしがみつき、エイヤー!と精子をかけたら水の勢いで全部流されてしまった・・・。想像すると大変気の毒だがちょっとワラえたり(スマン)。・・・何か配慮できることはないでしょうか。

 環境に配慮したダム作りでは魚道が花形ですが、これからは、ダムの周りで産卵したり生活したりすることを余儀なくされた生き物たちに対しても、配慮してあげてほしいです。
 例えば、ダム下流に設けることがあるウォータークッション(落下した水の勢いを抑えるためのプール)の中に水流を弱める工夫(下図参照)をすれば、流れが苦手な水生生物の生息空間を生み出せるかもしれない。そればかりか、流速が遅くなれば当然水深が上がる、すなわち下流に背の高いダムを作らなくても十分な深さのあるプールを設けることができ、経済性がアップする可能性まであります。

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サンショウウオ URL : http://xto.be/ ご質問等ありましたら掲示板にお願いします。
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