潰瘍や腫物

 皮膚の一部に潰瘍やにきびのような腫物が生じた場合は、細菌感染の疑いがあります。
 一見して異常がわかるので早期発見できる病気のはずですが、普段サンショウウオはシェルターに隠れていて姿をみせてくれません。善し悪しは別として、余計なストレスを与えないようにと気を使って観察を控えることが、病気の発見を遅らせる原因になっています。


尻尾の潰瘍(ファイアーサラマンダー)
参考文献より引用

原因

 両生類の皮膚を覆う粘膜には、細菌から体を守る機能があります(抗菌性ペプチド、マゲイニン:細菌の細胞膜に穴を作って殺菌する)。怪我をしたり、乱暴につかんでこの粘膜をこすり落としたりすると、そこが細菌の入り口になって感染します。
 主な原因菌はグラム陰性菌(アシネトバクター、エロモナス、シトロバクター、フラボバクテリウム、シュードモナスなど)で、まれにグラム陽性菌。

 グラム染色法により、ほとんどの細菌がグラム陰性菌かグラム陽性菌に区分されます。この大まかな区分によって、使うべき薬の種類が違ってきます。

治療

  • スルファジアジン銀
     銀が細胞膜や細胞壁に作用して発育や増殖を抑制します。
     処方薬として「ゲーベンクリーム」があります。近所の薬局で聞いてみましたが、残念ながら市販薬は存在しないそうです。

  • ゲンタマイシン
     アミノ糖系抗生物質で、細菌のタンパク質合成を阻害して殺菌的に作用します。1日当たり1〜3回の塗布が効果的のようです。ゲンタマイシンに限りませんが、特に小型の両生類に使う際は副作用に要注意。普通、効き目の強い薬ほど副作用も強く、特に抗生物質は副作用の出やすい部類のようです。
     「ゲンタシン軟膏」という処方薬があります。こちらも、市販薬は存在しないそうです。

  • オキシテトラサイクリン

     グラム陰性菌に特効あり(しかし耐性菌も生じやすいらしい)。細菌のタンパク質合成を阻害して発育や増殖を抑制します。高濃度では、抑制ではなく殺菌的に働くようです。市販薬として、「テラマイシン軟膏」があります(使用経験あり)。

     他に、BactineTM(Miles Laboratories,Ltd.)という薬を傷口がふさがるまで使い続けることで、回復が早まったという報告があります。
     なお、テトラサイクリン系の抗生物質は、消化器官内でカルシウムと結合すると吸収できなくなるそうです。もしも経口摂取を試す場合は、投薬期間中は餌へのカルシウム剤の添加は控えなければなりません。

  • フラゾリドン
     動物用医薬品として指定されている抗菌剤で、(水生の)両生類を水から出して5分間乾かす → フラゾリドンをスプレー → 薬が定着するまで、さらに5分間乾かす、という治療方法が紹介されています。

  • ワセリンによる傷の保護
     傷がひどい場合は、ワセリンで、1〜2日間、傷口を覆うと良いようです(包帯の代わり)。同時に、抗生物質の投薬も行います。ワセリンは薬局で購入できます。

  • 薬浴
     水生種の場合、グラム陰性菌に効果のある魚病薬(オキソリン酸で細菌のDNA合成を阻害する「パラザンD」や「グリーンFゴールド」など)を用い、治るまで薬浴を続けることが有効とされます。陸生種では、長時間水に浸けっぱなしにすることはストレス大なので注意。
     なお、両生類の皮膚は浸透性が高く、手足があるので普通の魚よりも体重あたりの表面積(=薬の吸収面積)が広いです。そのため、はじめは規定量よりも薄い濃度から試すのが安全。

  • 腫物の処置
     腫物の中の膿をすべて出し、上で紹介しているような抗生物質を溶かした水で洗い流します。しかし、傷口を直接いじるとなるとそれなりに訓練された技術が必要なので、素人は覚悟を決めて行うことになります。処置する際には、いやがるサンショウウオを無理やり押さえつけ、傷を増やしたり弱らせてしまうことのないよう注意が必要。手で直接押さえるのではなく、濡らしたガーゼなどで包んで押さえるようにします。

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